発表資料作り、全体的な流れは 1 週間ぐらいかけて構想して、半日使って 15,000 字ほど書いて (コード片含む)、半日使ってスライドに起こす(結果として 6000 字ぐらい使う)、って感じですね。貯めた文字列を組み合わせている最中に構想とは別のストーリーが降ってくることも多い。
— Takafumi ONAKA (@onk) July 3, 2018
このツイートの「文字を組み合わせる」のところについて、もうちょっと掘り下げてみる。*1
この記事は はてなエンジニア Advent Calendar 2022 の1月2日の記事です。昨日は id:stefafafan で 『UNIXという考え方―その設計思想と哲学』を読んだ - stefafafan の fa は3つです でした。
3 つのポイント
- 知っていること 7 割、聞いたことがあること 2 割、知らないこと 1 割
- 引用しやすいワーディング
- ストーリー作り
この 3 つはとても意識しているポイント。
知っていること 7 割、聞いたことがあること 2 割、知らないこと 1 割
大半は頷きながら聞けるし、やった方が良いって聞いたことはあるけど本当なんだと感じることもできる。そして知らないことを知って興奮する部分もある、というバランスを気にしている。
知っていることから始めることで、従来と違うところや、一番注目させたいポイントにちゃんと目を向けさせることができる、がこの割合の重要な点。これが逆転していると聞き手が途中で振り落とされてしまう。せっかくなら全員を最後まで連れて行きたい。
引用しやすいワーディング
Twitter で実況しやすいとか、ブクマコメントにしやすいとか、一部を切り出して「そうそうコレ!!」と流通させてくれるような聞き手との対話を考えながら作っている。これがあると無いとでは後から思い返される率がガラッと変わる。「引っかかり」を感じさせるキーワードを考え抜いて、色んな軸で引っかけに行くイメージ。
2-3 分おきに繰り出せたら飽きないトークになるので、緩急を考えながら散りばめていく。
いいワードが出たら懇親会とかでも話題にして貰いやすい。自分のトークをきっかけにコミュニケーションを生みたいので、話題になるのは目指したい姿。
ストーリー作り
上 2 つはテクニックっぽい *2 けど、ストーリーはもっと根幹なので、しっかり掘り下げてみる。
自分のプレゼンをふりかえる
Hatena Engineer Seminar #22 「会社説明資料に載らないはてな」
20 分トーク。会のテーマは「カジュアル面談」。僕は主にアウトプットをテーマにしたカジュアル面談を行ってきたので、その話をしたい。
話してきた内容をザッと書き出した後に、書き手側と読み手側という 2 つの軸があるんじゃないかというのが見えてきた。
- 技術記事を書く文化
- 技術記事を読むのを楽しむ文化
「片方に注力するのではなく両輪である」は普遍的に使える構造。
書く側にフォーカスした記事はよく見るが、読み手として楽しむ文化作りの方はあまり見ないので、これをセットにして両輪構造であると伝えるのは新規性がありそう。この構造を組み立てられたので、このトークは成り立つと考えた。
両輪のそれぞれが単独のトークとしても成り立つ自信がある内容だったので割と安産。
id:onk 技術力向上にアウトプットが効くと聞いているが始め方が分からない人から、アウトプット文化の無いところに文化を創りたい人まで、色んな カジュアル面談 をしてきました。その中で明らかになった 2 つの階段についてお届けします。
Hatena Engineer Seminar #19 「カクヨム編」
20 分トーク。会のテーマは「カクヨム」。その中でも、技術の話は他の人がやってくれるので、僕は開発チームの暮らしぶりにフォーカスしたい。
一番話したいのは昼会が 1h あること。これを短くできないか悩みながら 1h を維持することを選択しているので、この悩んだ過程を伝えたい。
リモートワーク下での雑談の必要性を「毛づくろい」に例えた話を以前どこかで見たことがあったので、タイトルと開始直後に「社会的グルーミング」というワードを打ち出して、必要性に権威があるっぽく見せかけることにした。*3
毛づくろいと雑談の対比構造だけだと LT で消化してしまう程度の話題なので、20 分トークにするにはもう 1-2 個盛り上がりを入れたい。
そこで
- 時間軸の違うそれぞれの雑談
- デイリー、スプリントごと、四半期ごとで、それぞれ喋る時間軸の違い
- 雑談とはつまり何なのか
- 相手の反応を想像できるようになる行為
- ボケ、ツッコミ、客
という 2 つの話題を追加した。
時間軸を変えると視座が変わり、視点を変えられる、というのは以前ブログに書いたが、この視座の変化を日常の中で回しているのは、安定して技術ロードマップを敷けるチームの特徴なので語っておきたい。
雑談から生まれる関係性というのは、記憶にあったこのツイートをイメージしていた。
大阪の小学校の授業を見学に来た先生が、「これが大阪か…!」と思った瞬間は、担任が「起立、礼、『着陸』!」と言ったら、クラスの3分の1が笑いながら座り、3分の1が「なんでやねん!」とツッコみ、3分の1が飛行機ポーズで座ったときだそうです。ワタシは、ほどよい割合だと思います。
— ぱふ (@ppaaffuu) September 22, 2015
我々はハイコンテキストな会話をよく行う。つまりコンテキストを理解していないと盛り上がらない、話す側も安心して話題を放り込めない。ボケ、ツッコミ、客の役割が成立している安心感が必要。
「雑談」というワードから、そもそも雑談は社会的グルーミング行為なので必要なのだと断言し、技術ロードマップ、メンバー間の関係性と、色んな種類の雑談の必要性を畳みかける、というストーリー。膝を打つシーンが何度かあるんじゃないかと思う。*4
id:onk カクヨムの開発チームではスクラムベースの開発プロセスを回していますが、昼会、スプリント会 (プランニングとレトロスペクティブを同時に行っています) に特徴的な工夫があります。現在のアジェンダに落ち着くまでの変遷と、このチームだから成立している「グルーミング」についてお話しします。
YAPC::Japan::Online 2022
20 分トーク。
かなり難産だった。作ったアプリケーションはある *5 んだけど、単発の施策であって、ストーリーが無い。
2 週間ぐらいこねくり回し続けていたら「フロー情報をまとめて放流し直すことで定着させる」が、このアプリケーションでのみ行われているわけではなく、他の施策にも適用されていて、繰り返し構造があることに気づけた。
社内勉強会によるアウトプットも、ブログによるアウトプットも、オープンソース活動も、すべて複数回触れる機会があるようにしている、というのは面白いテーマだろう。
これで
- アプリの説明
- 繰り返し構造の説明
で 2 テーマ、もう 1 テーマ欲しいので、最近の技術ブログの動向の一つでもある「ハブ」をくっつけて、全体を「個人か会社かは対立構造ではない」を軸としながら整えた。
僕らはインターネット上で開発の知見を得ることによってサービスを開発・運営できているので、インターネットに還元したい。そんな気持ちから、会社でもアウトプット (登壇や技術ブログ、執筆、OSS 活動等) が推奨されています。 社としての技術ブログも存在しますが、スタッフ個人のブログを通じて発信するのも同じように推奨していきたい。エンジニアの個人ブランディングも大事だと考えているし、自分の場所の方が書きやすいというのも感じているからです。 その上で、社内外の色んなサービスに散らばった技術 Tips を上手くまとめて再放流することで、手軽に情報を摂取し、技術的好奇心を満たし、成長し続けられる環境を用意したい。 そんな、個人の集合体としての技術コミュニティを運営する方法と、そのために開発したアプリケーションについて紹介します。
発表時間とテーマ数
以上のように、僕は 20 分トークでは 3 テーマを盛り込んでいることが多い。
LT だと 1 テーマで駆け抜けられる。20 分トークは LT 4 本分の時間があるので、素朴には 4 つの LT をすれば完成する。が、テーマ間の関連性を示すためにも時間を使いたいので、3 テーマが良いんじゃないかと思っている。
テーマ間の関連が薄いただの羅列だと聞き手がトークの現在位置を見失うので、上手い関連付け (これを特にストーリーと僕は呼んでいそう) が必要だとも考えている。
僕の好きな構成
5 分トークだと
- 問題提起
- 考えられる解決法
- 実際にやったこと
- 途中で出会った問題
- ふりかえりとまとめ
いわゆる STAR フレームワークに、やった人しか語れない話題をひとつまみ。
20 分トークだと
- 問題提起
- 問題を 3 つに分解する *6
- 問題 A について
- 考えられる解決法
- 実際にやったこと
- 途中で出会った問題
- 問題 B について
- 考えられる解決法
- 実際にやったこと
- 途中で出会った問題
- 問題 C について
- 考えられる解決法
- 実際にやったこと
- 途中で出会った問題
- それぞれの問題に共通していた特性
- ふりかえりとまとめ
特に最後の「それぞれの問題に共通していた特性」がアハ体験になるような、事実を積み上げていったら新たな発見があった!という構成が書いていて/聞いていてテンションが上がる。問題や解決法の再定義とか、つまりどういうことか、とかが決まるとカッコイイ。*7
この流れが好きなのは、聞き手の脳内モデルと一致しやすいと思っているから。聞き手が知っている、想定できる解決策から開始して、思ってなかった着地点に連れて行かれる。着地点はいいワーディングになっていてインパクトが残る。
クライマックスをしっかり盛り上げるような構成が好きです。*8
まとめ
- 聞き手を置いてきぼりにしない
- 聞き手をダレさせない
- 長いトークでも、5 分語れるテーマの組み合わせで考える
- 羅列ではなく、テーマ間に関連性を見出せるように選ぶ
- 僕は最終稿の 3 倍の量を文字にしてから、テーマに合うものだけ絞り出している *9
- 聞き手の感情グラフを考えながら、一本通ったストーリーにする
- クライマックスに計算した感動を用意する
*1:以前 登壇資料の作り方 - id:onk のはてなブログ にも書いたが、このときはあまり「考えていること」にフォーカスできていなかったので
*2:よく言われる「聞き手に持ち帰って貰いたいものを明確にする」を更にテクニックっぽくするとこの 2 つになりそう
*3:「毛づくろい」をカッコ良く言いたかったんだけど、「グルーミング」によくない意味が乗っかっちゃったので「毛づくろい」とそのまま言う方が望ましそう https://twitter.com/__gfx__/status/1598644538306097155
*4:id:seiunsky が輸入してくれたのは最高の出来事でした チーム内にテックな話題を話す場を作っておよそ半年が経ちました - SmartHR Tech Blog
*5:ブログから技術記事を抽出・集約してワイワイする - id:onk のはてなブログ
*6:やった順にフェーズを分けるのが一番簡単。納得感のある分け方になるように頭を捻る
*8:似た話題を id:Pasta-K がしていた。この感情グラフのイメージを僕も意識している Nota Tech Conf 2022 Springの"全員登壇"を支えた技術 - Helpfeel Developers' Blog