変化バジェットという考え方

この記事は はてなエンジニア Advent Calendar 2023 の 1/2 の記事です。昨日は id:nakataki1904年になりました(dayjsでの年入力の話) - nakatakiの日記 でした。190x 年から脱出できない面白い不具合でした。

変化バジェット

「変化バジェット」という考え方があります。というか世の中には無いんですが、僕は社内でこの概念をよく使っています。

だいたい名前から想像するものと同じなんじゃないでしょうか。組織が変化に対して許容できる予算枠だったり、組織が変化に対して投資する予算枠だったりを指しています。

変化バジェット=許容量

変化バジェットは、組織が効果的に変化を取り入れ、消化できる能力の範囲を指します。

組織の変化に許容量があるという概念は、組織に対してパッチを当てると言い換えると分かりやすいでしょう。小さな Pull Request ならすぐにレビュー&マージできますが、大きな PR は時間が掛かりますし、より多くの場所で障害が生じる可能性があります。

組織は、しばしば新しい変化に対して抵抗を示します。この抵抗は主に既存のプロセスへの馴れから来ています。

大きな変化を起こすと、その後一定期間は次の変化を起こせなくなります。新しい変化に体が馴染み、適応するために時間やエネルギーを使うからです。また、小さな変化を起こし続けていると、一定の力を変化への適応のために使い続けているため、目標達成のために全力を出せない状態になっているかもしれません。この状態だと大きな変化にも耐えられないでしょう。

チームが許容できない量の変化を持ち込むと、変化への適応をやりきれず、J カーブで成長していくつもりが、変化によって低下している期間が思った以上に長く続いて、アウトプットが下がります。

変化に適応するためには、組織が変化を取り入れ、消化できる能力の範囲、つまり「変化バジェット」を認識して変化を持ち込むことが必要なのです。

変化バジェット=消化すべき予算

変化に許容量があるのはなんとなく分かると思うけど、許容量があるということは、これはリソースなので、戦略的に使い切りたい。

そもそも変化すべきであるというのは前提として良いでしょう。半年後に同じ生産性だと何も成長していない=市場についていけなくなるので、何かしら変化を持ち込む必要は、あります。

変化バジェットを十分に消化できなかった場合、組織は本来すべきだった成長機会を失っていると考えるのが望ましいと私は考えます。各メンバーのスキルアップやプロセスの最適化、新しい技術の採用、とかの具体例を想像すると、消化していないと長期的に影響があることが分かりやすいんじゃないでしょうか。プロダクト開発のロードマップと突き合わせて、どのタイミングでどんな変化を持ち込むかを考えましょう。

変化バジェット=使うと増えていく

また、変化バジェットは人間の感覚的な抵抗なので、基礎変化量からの比で表せることにも注目しましょう。ウェーバーの法則ですね。この法則は、基本的な刺激量からの相対的な比率で刺激を知覚することを示しています。

たとえば、100の刺激が110になったときはじめて「増加した」と気付くならば、200の刺激が210に増加しても気付かず、気付かせるためには220にする必要がある。

変化に慣れていない組織では、わずかな変化 (例えば100から110への増加) が顕著に感じられ、適応リソースを払うべきものになりますが、変化に慣れている組織では同じ変化量と感じるためには、より大きな変化 (200から220への増加) が必要になります。これは、日常的に多くの変化を乗りこなしている組織だと、小さな変化には適応リソースを少なく、より大きな変化に対しても適応しやすくなることを意味します。

変化バジェットを未使用のまま放置すると、組織は変化しない状態を「新たな標準」と見なし始める可能性があります。SRE におけるエラーバジェットと同じですね。安定への期待が過度に高くなり、変化への対応能力が低下するリスクがあります。

逆に変化バジェットを積極的に使っていくと、変化することが当然となっていくので、変化バジェットは徐々に増えていきます。

まとめ

組織変革 (Change Management) において、変化バジェットという考え方を書いてみました。

組織には、変化を受け入れられる許容量があり、これを「変化バジェット」として考えることができます。変化バジェットをリソースとして適切に計画し管理することで、組織の適応性や成長を高めていくことができます。

変化バジェットは感覚的な要素を含み、馴れによって容量が拡大することがあります。つまり継続的に小さな変化を導入することで、変化に対する耐性の高い、強い組織を作れます。変化バジェットの小さいところでは、無理に大きな変化を起こすのではなく、小さな変化から始めることが有効です。

精神的なものだけじゃなく、仕組みによっても拡大します。アジャイルマインドセットや、イテレーションごとのふりかえりが機能している、チームの生産性を定量・定性的に観測しているチームは、絶えず変化と適応を繰り返しているので、変化バジェットが大きくなりがちですね。また、小さな変化だけでなく、狙いを持った大きな変化を定期的に持ち込むというのも効果がありそうです。組織体制を変えるとかですね。

はてなエンジニア Advent Calendar 2023、まだ続いていきそうです。

*1:日付を絞っているのは PHPカンファレンス福岡2023に proposal を出した から。